アルフレックスジャパン50年の歴史と これからのものづくり
ハイブランドの代名詞であるアルフレックス ジャパン。今回は、昨年50周年を迎えた同社 保科社長に「住宅情報 都心に住む」元編集長、坂根康裕氏が「50年の歴史とこれからのものづくり」についてお聞きしました。
アルフレックスジャパンの生い立ちと50年を振り返って
━━ 御社の哲学、どのような思いで50年やってこられたかについて、まずお聞かせいただけますか。
株式会社アルフレックス ジャパン 保科 卓社長: 弊社は1969年に設立しましたので、ちょうど昨年で50周年を迎えた会社です。私の父が創業者で、1960年代にVAN JACKETに勤めていました。当時、時代の後押しもあり、洋服を着飾ったり高級車への関心が高まったりという文化が浸透しつつあったものの、こと“住宅“分野においては、欧米と比べ”まだまだ“と感じたようです。出張で諸外国を訪れる度、「どうしてヨーロッパの人たちの暮らしぶりは豊かなんだろう」という思いに駆られたことをきっかけに、会社を辞めイタリアに行き、偶然出会ったアルフレックスという会社で働くことになったのです。
そして、2~3年ほど働いた後、帰国して当社を設立するに至りました。イタリアでものづくりを勉強して帰ってきて、最初はVAN Jacket社の出資で設立したのですが、当初から家具を通して、生活全体の提案をしようということで、「ライフスタイルを提案する」ということが企業理念でした。また、家具を販売するためには“箱”が必要だということで、大型の住宅やレストランなど商業施設の設計も手掛けている時期もありました。
企業理念として「日本の生活スタイルを豊かにしていこう」ということを掲げていたので、イタリア製品の輸入やライセンス製造に並行して、設立当初から日本オリジナルの製品開発もはじめていきました。設立2年後の1971年には日本オリジナル第一号を発表しています。70年代には家具以外に生活雑貨の〈オレンジハウス〉を展開していました。80年代には、六本木のAXISビルにお店を構え、さらに、1987年には住まい全体を提案するためのショールーム施設〈カーサミア河口湖〉を開設しました。公益社団法人インテリア産業協会が1983年にインテリアコーディネーター資格試験を始め、その後の90年代はインテリアコーディネーターが流行していました。その流れもあって“トータルコーディネーション”という考え方を推し進めていました。そこから時代はどんどん変わり、トータルコーディネートから、少し個性を取り入れる“ミックス”が流行り、それに呼応するように弊社もアルフレックスだけではなくて、他に取り扱っていた輸入ブランド製品と組み合わせて提案するようになってきました。現在は、アルフレックス、Molteni&C(モルテーニ)、キッチンのDada(ダーダ)、無垢材のRiva1920(リーヴァ)、アウトドアのRODA(ロダ)、全部で5つのブランドを取り扱っています。
━━ 御社が理念の一つとして掲げている「arflexの求める家具はまさに“生活の道具”」というフレーズがとても印象的です。
そうですね。ライフスタイルを提案しようということで、お客様の生活に寄り添い、長く安心してお使いいただける家具を通じて心豊かな暮らしをサポートしていきたいということが弊社設立の想いでもあるので、製品はできるだけシンプルで主張しすぎず、その代わり素材や手触り・快適さにこだわるという考え方が脈々と受け継がれています。
━━ この50年の中でやはり日本も団地という「量」を追い求めた時代から今「質」にという時代に向かいつつあると思います。一方で、地価が上がることで面積が狭くなり、というマーケットの変化についてはどのように思われますか。
保科社長: 先ほど出ていた話題で、“トータルコーディネート”のようなものは、高度経済成長期、インテリアもさることながらマンションがどんどん供給されていく中で、「リビング、ダイニングの木質や張り地を揃えよう」という非常にわかりやすい提案をしてきました。
現在はおっしゃられたとおり“量”より“質”に変わってきていると感じています。家具を買いに来られたお客様から、お家全体のコーディネートをお願いしたいという相談も増えてきました。そのようなご要望にお応えするため、2018年末からダーダというキッチンブランドを取り扱い始めました。
キッチンを展開するということは、インテリア全体、内装全体の提案ができなければいけないということで、ご要望に合わせて時代の流れとともに、企業の強みや得意分野を変容させ、ニーズに応じた事業を展開しています。
━━ 都心の高級マンション竣工時に、高級家具ブランドの注文が増えたということを耳にしました。大邸宅や別荘といった広い空間からマンション向けの需要が拡大している印象があります。比較的狭いリビングに入るコンパクトな商品へのニーズが高まっていますが、マーケットの変化に合わせて、ターゲットを広げるなどの変遷はあるのでしょうか。
保科社長: はい、あります。90年代、2000年代に、マンションの供給が一気に広がってきたときに、デザインも強すぎず、シンプルで飽きのこない、コンパクトなアイテムの幅を広げました。
━━ この二極化と呼ばれる中ですが、現在の富裕層は、大きな家に住むというよりは、100平米、200平米のタワーマンションの部屋に住むということで、ずいぶん家の大きさというものが変わってきたかもしれないですね。
保科社長: そうですね。弊社にお越しいただくお客様の中でも、家具単体でのご要望もあれば、大型の収納からキッチンまで全てをご相談いただくような場合もあります。ですので、この10年ほど、幅広い商品展開とあらゆるご相談に応じられる体制を整えることに力を入れています。
━━ 昔のマンションのバルコニーは、室外機置場と洗濯物干し場のための空間というイメージでしたが、現代のマンションでは、屋内と一緒に使うような感覚が少しずつ浸透しはじめていますね。SNSなどで新型コロナウイルス対策で自宅で作業をしているのを見ると、バルコニーで短パンでパソコンを打っているような姿を目にします。このような写真を見ると、時代が変わってきたと感じます。以前から屋外用の家具ブランドも取り扱っていたと思いますが、このような屋外用アイテムのマーケットは広がっているのでしょうか。
保科社長: はい、アウトドア家具は15年ほど前から展開をしていますが、昨年からはロダというブランドを取り扱いはじめまして、特に今回の新型コロナウイルス対策として、屋外をうまく使おうという機運が高まったこともあり、アウトドファニチャーを屋外あるいは家の中でも使っていただける機会が増えてきたように感じます。
アウトドアファニチャーの特徴は、持ち運びしやすいなど実用性があり、耐久性も非常に高いという点です。造りが丈夫で雨に濡れても問題ありません。ですから、当然家の中でも充分使えるということで、ロダが提唱している考え方は、”IN and OUT“。中と外の境界を越えて生活していこうという提案なのです。まさにそういう時代がやっと日本にも来たかなと思っています。しかし、海外と比べるとまだ伸び代はあり、ちょっとしたコーヒー用のテーブルだったりラウンジチェアだったり、小ぶりなものを中心に動き始めたというのが今のところです。
━━ 御社が海外のブランドと提携する時のその決め手はどのようなものなのでしょうか。
保科社長: 弊社のメインブランドであるアルフレックスは、ソファーが中心のブランドです。
国内に自社工場も持っているので、リビング系、特にソファカテゴリーは自社ブランド製品のご提案に力を入れています。モルテーニは、総合ブランドではありますが、収納が一番得意な会社です。システム収納は製品開発の難易度が高いこともあり、そのような視点でモルテーニを選びました。また、無垢材のダイニングテーブルが得意なリーヴァ、アウトドアファニチャーはロダというように、各商品カテゴリーで自社ブランドと組み合わせた提案ができるものを選んでいます。
また、アルフレックスの特徴である「シンプルで飽きがこなくてデザインが主張しすぎない」点で、ブランド同士の相性が合うことが大切だと思っています。リーヴァもそうですが、非常に素朴ですがデザイン性は緩やかなイメージのブランドです。自社で持ち合わせていない商品カテゴリーで、かつ特化した特徴がアルフレックスと合致するブランドを選んでいます。
アルフレックス製品の魅力
━━ ご自宅で使われている家具など保科社長のお気に入りの家具についてお伺いできますか。
保科社長: 東京の自宅では、GRANというソファーを使っています。昨年、MILANにモデルチェンジしたソファーなのですが、こちらのダークブラウンのレザーカバーのソファーを使っています。
また、河口湖の弊社施設近くにある自宅では、ロダのアウトドア家具をテラスで使い、リビングにはOMNIOを置いています。OMNIOは1人1シートのモジュールタイプのソファーなので、好きなレイアウトで配置でき、家を引越ししてもずっと使っています。
また、PERCHというラウンジチェアも使っています。OMNIOとPERCH、この組み合わせがひとつ気に入ったセットですね。
━━ やはりご自分で使っていると座り心地などその製品の良さがわかるんですね。
保科社長: すごく、よくわかります。よいところだけでなく、改善の余地があるところ、製品同士の相性なども使っているとわかります。
━━ 今後注力していくブランド・製品についてのお考えをお聞かせください。
保科社長: アウトドアの需要も高まっていますし、始めたばかりのロダについては、河口湖にある弊社のショールーム施設 カーサミア河口湖の豊かな自然の中で動画を撮ってみたり販売促進を行ったりと、少しずつ力を入れています。また、モルテーニグループのキッチンブランド、ダーダについても、始めてから1年半になりますが、私自身を含め、社員が体感しながら、きちんと提案できるように無理のない計画で取り組んでいこうと思っています。
アルフレックスの方では、ソファーが中心のブランドなので、今後少子高齢化で人口が減少していく中で、時代に求められる、より品質の高い製品を開発していこうと考えています。
人々のライフスタイルの変化とこれからのものづくり
━━ たしか、ミニバブルがあった2006、2007年頃だった思うのですが、すごくラグジュアリーなものが地方の百貨店ですごく売れているという話を当時聞いたことがあるのですけれども、いま、経済の二極化が進む中で、階層がキレイに分かれていくことが予想されます。
保科社長: おっしゃるとおりです。弊社もできるだけ広いストライクゾーンで、売上の拡大を目指してきたのですが、二極化が進むにつれ、ここ4、5年は、高価格帯に焦点を絞ぼるようになりました。キッチンを含めたトータルのご提案で、顧客単価を上げ、内装インテリアを含めた、家具販売だけではないところまで広げていく、ということがこの数年注力していることです。また、家具だけでなく、この店内にあるものは、アートもグリーンも、スクリーンやカーテン、ラグ、照明まで全て商品なので、家具をご提案しながら、お客様のお住まいをトータルで提案していくということも得意としています。
━━ 新型コロナウイルスによって、ライフスタイルがどのように変わっていくとみていらっしゃいますか。
保科社長:先日、カッシーナ・イクスシーの森社長と対談した際に、今回のステイホームでこれだけ”家”への関心が高まる中、我々のビジネスがよくならなかったら、もう二度とチャンスは無いと話していたのですが、本当にそう思いました。
もちろん不透明な社会状況の中で、伸び悩む販路もありますが、直営店へのご来店者数は増えていますので、前向きに捉えています。家にいる時間が増え、生活を見直す機会ができ、家具の修理や買い足しをご検討される方が増えています。そんな時に、せっかく買うのなら、いい家具を買おうという機運になるのではないでしょうか。ですから、上質で長く使える製品を引き続き提案していきたいと考えています。
また、弊社はメンテナンスが大変得意ですので、一度購入いただくと、20年、30年と、長く安心して使い続けていただけます。そのためのサポート体制を整えているということを、これまで以上にしっかりとお伝えすることで、総論としてはビジネス的にもよくなっていくのではないかと思います。
私個人のことになりますが、先日縁あって郊外に家を購入し、都心と2拠点の生活を始めました。郊外の家は広さもあり、都心にいる時とは過ごし方も変わってきます。今後世の中を見ても、時間と場所にしばられない暮らし方が、おそらく広がってくるのではないかと思います。そういう意味では、弊社の提案できる機会も一層増えてくると考えます。このような変化をしっかりと見極めながら、時代に求められる製品づくりとご提案をしていきたいと思っています。
━━ なるほど。メンテナンス・修理交換の相談がすごく増えたとお聞きしましたが、家の中での行動というかやる内容が変わって、こういう家具が無いかっていう相談が多いですか。
保科社長: やはりサイドテーブルや家の中のちょっとした場所に置けるデスクのご相談が多いです。リフォームやトータルのご提案でも、必ず小さな書斎がどこかにおけるようにというご要望が増えています。カタログ製品の他に、特注でおつくりすることもあります。
━━ 最後に一言お願いします。
保科社長: 弊社では、今回の新型コロナウイルス感染症拡大防止策として、リモートワークを積極的に推進してきました。完全にリモートワークができる社員もいて、なかには片道2時間かけて通っていた社員がリモートワークに切り替えたことにより毎日の通勤時間分を手に入れたという例もあるくらいです。今後は益々時間や場所に縛られずに、生き生きと仕事とプライベートを楽しむという会社にしていきたいと思っています。会社のサポートにより社員が豊かな生活を送ることが、お客様に対しての豊かな提案に必ず結びついていくと考えています。このようにお客様と一緒になって豊かな暮らしを作ることができるような企業になれたらというのが私の夢なのです。