「ボーダーレス×タイムレス」デザインが
生み出すリッツウェルの価値
北欧ブランドのような洗練されたデザインでいて、日本が長く大切にしてきた用の美を感じるーーシンプルで大胆なフォルムの中に細部までのこだわりが魅力的なリッツウェル(Ritzwell)のファニチャー。
今回はリッツウェル代表取締役社長の宮本晋作様に、自らデザインを手がけるリッツウェルのフィロソフィーやものづくりについて伺いました。(構成 小林暢世)
家具の本場イタリアで存在感を放つリッツウェルのデザイン
━━ リッツウェルといえば、家具の本場であるイタリアで国際的デザインアワードを受賞したり、イタリアのミラノサローネでも特に一流ブランドが出展を許されるHall-5に連続出展を果たしていたりと、アジアの家具メーカーとしては非常に数少ない世界的なデザイン評価の高いブランドの一つです。海外の展示会や見本市に行くと感じるのですが、現地での評判や結果がビジネスと結びつかずに撤退を余儀なくされるアジアのメーカーも多い中で、日本のインテリアブランドがこうした高い評価をいただくことって実はとてもすごいことですよね。
代表取締役社長 宮本様:そうですね。もともと家具って欧米のライフスタイルの中で培われてきた道具ですから、欧米のライフスタイルに日本のメーカーが入っていくのはまだまだ難しいのが現状です。
その中で、リッツウェルのデザインは、さまざまな文化や地域、時代が大事にしてきたことを要素に取り入れており、そこが逆に言うとどこの国の所属でもない、時代の所属でもない、いわば「ボーダーレス」「タイムレス」な表現なんですね。流行に左右されない、普遍的な心の豊かさや自然の本質がデザインの根幹に流れており、そうしたあり方や考え方も含めて評価していただいていると感じています。
━━国内外での出展やデザイン賞受賞も多いですが、特にイタリアでのご活躍が多いようにお見受けします。
宮本様:リッツウェルは1992年に父が創業し、僕が二代目になります。現在は、福岡本社のほか、東京、大阪、そしてイタリアのミラノに拠点を構えています。
もともとは九州の家具メーカーからスタートしたリッツウェルですが、創業当時から海外進出、特にデザインの本場のイタリアで認められたいというのが父の目標でした。特に南仏やイタリアの明るくてきれいで優しいデザインに憧れていたというのもありますが。ミラノサローネはいまだに当社にとっては大きな夢であり目標であり続けています。コロナ禍で2021年のミラノサローネ出展は叶いませんでしたが、また落ち着いたら参加を考えています。
もともと海外進出に重きを置いていたのは日本の市場での課題にありました。というのは、日本の市場ではどうしても流通の関係上、大手の家具メーカーがシェアも大きく展開しやすいというのがあります。日本では小さなメーカーだと多くの皆さんに見てもらえる機会はなかなかありませんが、海外の市場ではミラノサローネのような展示会に出てデザインで勝負でき、良いものは良いと評価を受けながら展開できるというのが魅力です。実際に評価のコメントなどを聞いてみると、デザインしている僕らよりも本質的な価値について見てくださっているなと感じることもあります。
イタリアだけでなく、海外での出展は欧米の文化や家具に対する敬意をベースに、自分たちが考える暮らしの中の家具デザインを世界に提案する場として位置付けています。リッツウェルのデザインのもつボーダーレス、タイムレスの空気感、価値を世界中の皆さんに知って欲しいなと考えています。
「買った時より価値が出る」ものづくりを目指して
━━リッツウェルの家具は、シンプルでスタイリッシュなラインを持つ家具が多いのですが、手に取って触ってみると、たとえばMO BRIDGEのように厚い革の弾力で背中やお尻を絶妙に支えてくれていたり、手に握りやすいように曲線をしぼった肘掛けだったり、と細部のひとつひとつへのこだわりを強く感じます。リッツウェルが目指すデザインについて教えてください。
宮本様:そうですね。デザインへのアプローチは様々な事象から受けていて、自然や日々の出来事、社会からのインスピレーションを受けたものが無意識の中に取り込まれて蓄積されてデザインの一部に生かされている、といったイメージです。
その中でもリッツウェルらしいデザインといえば、相反する要素を内包している、とでもいいましょうか。物事には一つだけではない、多角的な側面があります。
たとえば、家具に求められるのは、見た目のデザインの美しさとともに機能、使い勝手です。家具は使うものですから。でも世の中の多くのデザインがそうであるように、見た目の美しさにこだわりすぎると製品そのものが使いづらくなってしまう。
見た目の美しさと機能、相反する要素ですがどちらも追求して見た目も使い勝手も良いものを目指しています。でもそれだけではダメだと思うんですね。なんといっても家具は長く使うもの。この点に置いて時間との戦いだと思っています。
新品の家具はどれも完全な状態であることは当たり前です。そこから家具を長く使えなくなる状況になるとしたら、壊れる、飽きる、時代に合わなくなる、ということ。だからこそ「時の試練に耐えうる家具づくり」を目指しています。時の試練を耐えるうる家具、それは使い続けた結果、時を経て、買った時より大切な存在になって、買った時より価値が出るということ。
味が出る、愛着がわいて離れがたくなる、気づけば家族の一員として家におさまっている・・・そうなることが理想です。
家具のある空間では、家具の使い手が主人公であり、環境が時間を支えています。
気付いたらさりげなく暮らしの景色におさまりながら、使う人たちに寄り添い続ける家具を作りたいと日々考えています。
━━「新品の家具は買った時が一番金銭的な価値が高い」ことが一般的な、消費サイクルが非常に短い現代の中で「年月を経て買った時よりも価値が出る」という家具は、作り手としてすごいチャレンジングですよね。
宮本様:耐久性の問題とか技術の開発などで、多くのものの消費サイクルが短くなっているというのはありますが、そもそもメーカーとして長く使えるものを作る、というのはSDGsの観点からも真っ先に考えるべき課題だと感じています。
今は環境保護の観点から、「使い捨て」から「長く使う、再利用する」というように、ものの消費や価値観が見直されてきていますが、でも、そもそも私たち日本人には「ものを大切に長く使うこと」ってDNAに組み込まれているんじゃないかと思っているんです。昔から日本の社会はひとつのものを大事に使って、壊れたら直したり裏返したり別の用途のものとして工夫しながら使い、最後までものを大事に使ってきました。
ものの寿命を最大限に生かすような、サスティナブルなエコロジー社会だったのに、戦後ものが豊富にあふれてきたら「使い捨て」に変わってしまって。日本人の生活の中では「使い捨て」よりも「長く使う」時代の方が長かったわけですし、ここで一度立ち返るべきですよね。
もう一度、ものに愛着を持って長く使う生活に返るという意味でも、長く使える家具を作ることって大事だなと思っています。
━━お話を伺っていると、一つの家具を長く使って欲しい、という根底に、家具一つ一つに価値というか命が宿っているかのようなイメージを抱きました。
宮本様:ものを長く大事に使う理由って色々あると思うんです。たとえば、もう古くてガタがきているんだけど気に入っていて捨てられない、とか、お母さんが若い頃から使っていた大事なものだ、とか。そう言う意味では、家具が使う人にとって“ただの物体”ではなくて、意味や価値をもった家の一員であるからこそ長く愛着を持って扱いたくなる、というようになれば良いですね。
リッツウェルの家具は、手触りの良さや馴染みの良さ、優しさにこだわって設計しています。家具が部屋の風景に溶け込んで、愛着がわき、やがて自然と家族の一員として長く存在して人生に寄り添っていくものであればいいなと願っています。